「54年ぶりに人類が月へ向かう」。言葉だけ見れば、とんでもない歴史的ニュースです。なのに、日本では驚くほど静かに見えます。けれど、ここで見落とすと本当にもったいない。アルテミスⅡは、派手さより“中身”がとにかく重い。人類が次に月へ「戻り続ける」ための、巨大な一歩だからです。

アルテミス計画とは何か
アルテミス計画は、アポロ以来となる有人月探査を段階的に進め、月の周辺〜月面での活動基盤を整え、さらに先(火星)につなげていく長期プログラムです。その中核が大型ロケットSLSと宇宙船Orion。まず無人で安全性と機能を確かめアルテミスI(2022年)、そして“人を乗せて”深宇宙運用を成立させるアルテミスⅡ(2026年)、その先で着陸へ段階を上げる――この積み上げが計画の骨格です。
アルテミスⅡは何をするミッションか
ここが最重要です。アルテミスⅡは月面着陸ではありません。ミッションタイプはNASA自身が明確に「Crewed Lunar Flyby(有人月フライバイ)」としており、4人のクルーがOrionで月近傍へ向かい、周回・接近(フライバイ)を行って地球へ戻る計画です。ミッション期間は約10日とされています。
執筆時点(2026年1月24日)でNASA公式は、打上げは「No Earlier Than(早くても)2026年2月6日」と表現しています。つまり、日程は“確定”ではなく、準備状況と試験結果を見て決まる段階です。
それでも「偉大」だと言い切れる理由
54年ぶりに“有人で月へ向かう”という歴史的価値
アポロ17号(1972年)以来、有人が月の近くへ行くのは久しぶりです。人類が月へ向かう、という事実そのものが、宇宙開発のフェーズが変わった合図になります。「いつか」ではなく「現実に動いている計画」へ、世界が戻る。ここに重みがあります。
有人深宇宙飛行は、地球低軌道とは別ゲーム
ISS(国際宇宙ステーション)のような地球低軌道なら、通信も比較的安定し、緊急時の帰還や補給の選択肢もあります。しかし月へ向かうと、距離も運用の制約も跳ね上がる。通信の遅れ、航法、電力、熱制御、放射線環境、そして「人が乗っている」ことによる安全要件。深宇宙の有人運用は、技術と手順の総合格闘技です。アルテミスⅡは、その“有人で成立させる”ことを主目的に置いたテスト飛行です。
「総合リハーサル」の価値が桁違い
アルテミスⅡの価値は、“月まで行った”という見栄えではありません。生命維持、通信、航法、運用(クルーと地上管制の手順)、そして地球への再突入と回収まで含めて、有人深宇宙ミッションに必要な能力をまとめて検証する点にあります。無人でできる試験には限界がある。人が乗るからこそ、運用が現実になる。だから、次の段階(着陸)への段差を埋める「偉大な下支え」になるのです。
“軌道”そのものが、次の時代の設計図になる
NASAはアルテミスⅡの飛行経路(10日規模の「自由帰還軌道(フリー・リターン・トラジェクトリー)(月を回って8の字を描くように戻る軌道)」)をビジュアル資料として公開しています。軌道はロマンではなく、運用の設計図です。どう月へ行き、どこを通り、どう戻るのか。その設計が「再現できる形」で示されること自体が、着陸へ向けた現実味を一段押し上げます。
なぜ日本では盛り上がっていないのか
アルテミスⅡのことを周りに聞いてみましたが、知っている人はぜんぜんいませんでした。今回のミッションは、日本人クルーがいないので、国内メディアはあまり取り上げないから認知度が低いのかも知れません。
ただねぇ。日本人クルーがいるとかいないとか、そんなことでなくて、主語が「人類」なんですから、もっと、こう、ね。
これだけ押さえればいい見どころ
NASA公式で何を見るか
- ミッションの“固定情報”はNASAのアルテミスⅡのページで確認(ミッションタイプ、期間、クルー、目的)。
- 打上げは「NET(No Earlier Than)」表記が基準。まずは“最速の目安”として理解する。
「NET」「打上げウィンドウ」など延期前提の読み
- NETは「この日より前には打ち上げない」という意味で、確定日ではないです。
- 直近報道では複数の打上げウィンドウ(2月・3月・4月など)が言及されています。延期は“異常”ではなく“通常運用”として受け止めるのが正解です。
事前の節目(試験・リハーサル等)がニュースになった時の見方
ロケットが発射台へ移動(ロールアウト)した、燃料を入れてカウントダウン手順を通すリハーサル(ウェットドレスリハーサル)を行う――こうした節目が「リスクを潰している証拠」です。報道では、打上げ前にウェットドレスリハーサル(燃料充填試験)を予定していることが伝えられています。2026年2月2日頃までに実施される計画で進んでいます。
まとめ
アルテミスⅡは月面着陸ではありません。けれど、そこに価値がないわけがありません。むしろ、次の着陸を“机上の計画”から“実行できる計画”へ引き上げる、有人深宇宙の総合試験です。偉大さは、結果の派手さではなく、積み上げの重さに宿ります。
そして今、歴史は確実に動いています。SLSロケット(宇宙船Orion搭載)は、2026年1月17日に米国ケネディ宇宙センターのVAB(機体組立棟)から発射台(39B)へのロールアウト(移動)を完了し、打上げ準備の最終局面に入ったことが報じられています。日程が動く可能性を含めても、これは「始まっている」ニュースです。
次の一手はシンプルです。NASA公式ページを基準点にし、NET表記と事前試験のニュースを追う。点で追うのではなく、節目を線でつなぐ。そうすれば、アルテミスⅡは“静かなニュース”ではなく、“歴史が動く音”として聞こえてきます。